Csi: Miami - Three Season Pack (21pc) (Ws Box)
/
ISBN : B000B6TTCI
スコア選択:
さて、昨日の"CSI:Miami"。
・・・・・・と言っても知っている人の方が少ないか。"CSI:Miami"は、CBSの捜査もの連続ドラマの一つで、FLDP(Florida Police Department)の科学捜査班が事件を解決していく話。CSIはシリーズ展開(「スピン・オフ」というやつ)されていて、他にLVPD(LVはラスベガス)やNYPDの科学捜査班も連続ドラマになっている(元はLVPDの方。番組名は"CSI:Crime Scene Investigation")。このドラマに登場する数々の高度かつ精密な技術がどれほど現実を反映しているのかは不明。
娘が生まれてから思うように映画が観られないので、今は娘が寝た後にCBSで1時間もののテレビドラマを観ることが多くなった。
前にもこの日記に書いたことがあるが、捜査系のドラマは-少なくともCBSのものは-最近話題になった映画の設定を利用したり、ストーリーが現在の米国の社会問題を背景にしたものだったり、数年前に話題になった事件をストーリーで取り上げたりするので興味深い。ただし、そのせいかドラマの結末にやりきれないものを感じることが多く、後味が非常に悪い。映画の方がよっぽどすっきりしている。
CBSの捜査系ドラマを観ていて、その多くに製作総指揮として、ジェリー・ブラッカイマーのプロダクションか、リドリー、トニーのスコット兄弟が立ち上げたプロダクション(ScottFree Production)かが携わっているのに気が付いた。CSIはブラッカイマーの方である。
映画人って社会問題に対してリベラルな立場を取る人が多く、映画でそれを表明することも少なくない。時にはそれを表明するために映画という媒体を積極的に使う。
しかし、テレビではコンサバティブな観点からの制約が多いんじゃないかと思う。ドラマもコンサバティブ寄りな描き方にならざるを得ないんじゃないだろうか。
そういう意味で、こういうドラマが米国の社会問題に対してどういう立場を取り、その立場がどういう風に映画に表れているのかをしばらく観察してみたい。
前置きが長くなったが、ここで、昨日の"CSI:Miami"に話が戻る。
昨日のテーマは「家族」だったらしい。
以下、その観点からの個人的な解釈(ネタバレ)。
1.事件と主な容疑者
幼女に対する連続性犯罪で刑を受けて服役していた男性が出所後、殺害される。一見、周辺住民によるリンチ殺人に見えた事件だが調べていくうちに様々な立場の容疑者が浮かび上がる。
主な容疑者は、
◆周辺住民の一人:10歳くらいの娘がいる。仲間と一緒に被害者をリンチするために娘を囮に。
◆性犯罪の前科者:女優(成人女性)に対する性犯罪の連続事件を起こしたことがあり、公開されている性犯罪の前科者リストに名前がある。自分の近所に前科のある幼児性愛者が越してくることで、自分も嫌がらせ(リンチ、破壊行為)の対象となるのを迷惑に思い、ネットを通じて被害者に再度事件を起こさせようと試みる
◆被害者が過去に起こした事件の被害少女:殺害された男性が過去に起こした10件の連続事件(家宅侵入し少女に性的いたずらまたは性的な暴行を加えた)の被害者の一人。彼女の身に起こったことを、彼女の母親が「性犯罪の被害にあったことが記録に残れば、娘の将来に傷がつくから」と家宅侵入だか強盗だかの罪名で報告したため、10件の事件のうち彼女の事件だけが性犯罪として扱われなかった。少女は、男性が出所後に身を寄せていた弟の家に投石。ドラマではこの投石によって彼女の傷が癒えていないことを示し、癒すことの出来なかった大きな原因は彼女が被害にあった当初の母親の対応(隠蔽)にあることが示唆される
2.性犯罪者(sex offender)に関する専門的な見解
チームメンバーのケイリーとライアンが、事件について話し合っているその会話中で、性犯罪者(sex offender)全般について、
「治らない」
(または「矯正できない」か。いずれにせよ「治療」のニュアンスが強かった)
という専門的な見解が共通の認識として示される。
3.犯人(とドラマで示唆される「家族観」)
結局、男性を殺害したのはその弟だった。
兄は、何とか自分の性衝動を「治そう」とするのだが、ネットで正体不明の相手から幼児ポルノの画像を送りつけられて動揺し、穏やかならざる心境で公園で少女(実は囮)見つめていた(本当は子供の500フィート以内に近づいてはいけないことになっている)現場を弟に押さえられる。
弟夫婦は長い間子供を望んでおり、最近妻が妊娠していることがわかったが、夫が兄を受け入れたことで夫婦の家に嫌がらせが続き、それが原因で妻が流産する。その流産の知らせを聞いたばかりの弟は公園付近をうろつく兄の姿に失望、逆上し、兄がリンチを恐れて自衛のために持ち歩いていたナイフを取り上げて刺してしまう。
"My parents told us family was everything"
と語る弟からは、「家族」として兄を受け入れざるを得なかった彼の心境と、「自分の子供を持ってこそ家族が成立する」という彼の「家族」に対する考え方がうかがえる。
この回のラスト、留置場へ連れて行かれる弟と呆然とその後姿を見つめる彼の妻の姿を見て、ライアンがケイリーに「かわいそうな男だ。判事が情状酌量してくれるといいのに」という意味のことを言う。
それにケイリーは、
"Killer is a killer. He killed his brother"
と返す。ライアンが、
"Is that your opinion?"
と尋ねると、ケイリーは、
"Personally, no. But professionally, yes"
と答える。これは、視聴者の多くが持っている考え方を登場人物に代弁させているシーンだろう。そして、一見、この番組もその立場を取っているように見えるが、その前の取調べのシーンでの、ホレイショー(チームのリーダー)の弟に対する厳しさを見るとそうも言い切れないところがある。その冷ややかさは、まるで、
「それなら何故、兄を自分の家に受け入れた?『家族であること』『形としての家族』にこだわるばかりに、結局、自分だけじゃなく兄や妻に不可能なことを押し付ける結果になっただけじゃないか。
それに、『治らない』ものを治そうとする兄の努力を見守っていた気でいるのかもしれないが、実際には、家族のあるべき姿にこだわって、不可能なことの実現に期待し、それが逆に兄を追い詰めたんじゃないのか。所詮、自分で勝手に期待しておいてそれを裏切られたために逆上した身勝手な犯行に過ぎないんじゃないか?
なぜ、不可能なことを不可能と判断し、出所した兄を拒絶する強さを持てなかったのか。(つまり、弟はこの事件において、いかなる意味でも被害者ではなくあくまで加害者である)」
と言っているかのようだ。
4.「チームメンバーであるアレックスが窮地に陥る」というエピソード
CSIのチームのメンバー、アレックス(医学博士で或る医療機関からの出向という形でチームに所属している。殺害された男性の近所に住んでおり、2児の母)が、性犯罪者が転入してきたことを知らせるポスターを事件前に近所に貼っていたことで難しい立場に立たされる。ちなみに、この「難しい立場」は彼女の職業が(出向と言う立場であっても)公務員であるからで、この行為自体が否定されているわけではないらしい。
さて、ホレイショーの「家族への過剰なこだわり」を排する考え方はアレックスの処遇にもうかがえる。
実は、アレックスが「窮地」陥った要因は、今回のポスターの件だけではなく、前回の捜査中に大怪我を負ったライアンに抗生物質を与えた(彼女はライアンの主治医ではないので処方してはいけない)のもその一因であった。
今回のポスターの件では自分の家族へのこだわりが、ライアンへの処方の件では彼女が家族同然と見なしているチームへのこだわり-つまり、どちらも彼女なりの「家族観」に基づいた家族へのこだわり-があった。実際、籍を置いている医療機関の長から、シフトの変更(事実上、CSIのチームから彼女を外す処分となる)を命じられ、いったん承諾した後、悩んだ末に拒否するシーンで、彼女はチームを「家族」に例えている。
抗生物質の処方については、アレックスはライアンしか知らないと思っており、ライアンはホレイショーにだけは言ってある。つまり、それをアレックスの上司が知っているということは、ホレイショーが報告したことになる。それを知ったライアンはホレイショーを責めるが、ホレイショーは「この件に関して口出しするな」と言う。その時のホレイショーの毅然とした態度からも、「家族」というものへの過剰なこだわりを不適切と見なす彼の考え方がうかがえる。
5.ホレイショーの家族についての考え方(「家族観」そのもののの否定)
もちろん、あくまで職業倫理という観点での話(そう言えば、前回のストーリーで、家族の事情で現場への呼び出しに答えられなかったエリックに対する態度もかなり冷ややかだった)で、プライベートで「家族を大切にする」という考え方を否定しているとまでは言えない。ホレイショーというキャラクターの描かれ方を見ると、なぜか人間的に情の薄い人のように見える。「なぜか」というのは、彼は周囲の人間のことを十分大切にしているからで、それにも関わらず、という意味だ。
それが不思議だったのだが、今回のドラマで何となくわかったような気がする。例えば、今回のドラマの隠れたテーマである「家族」に関して言えば、どうも彼は「家族観」というものを余計なもの、過剰なものとして捉えているように見えるのだ。彼は「家族を家族として大切にする」ことを、それが「必ずしも自分の家族をそれぞれ個々の人間として大切にすることになるとは限らず、逆に、場合によってはそれに反することがある」として、あまり好まない人なんだろう。
6.「(職業倫理的)欠点も持ち合わせるヒーロー」であるホレイショー
このホレイショーという人物、職業倫理的に見てそれほど立派な人なわけではない。わりとしょっちゅう公私混同しているようだ。
彼の場合は主に、「仕事」にこだわるあまりの公私混同である。特定の事件に執着するあまり・・・・・・という感じ。(今は管轄外となった過去の事件に関与して内務調査班から注意を受けるシーンが時々ある。)
「家族」ということに関しても、確かにその点で部下の公私混同に厳しい態度を取るものの、5で述べたように、実は「家族」については彼個人の考え方がかなり厳格なのである。つまり、彼自身が公私混同していないとは言い切れない。もしこの点で、彼を「公私混同しない人」として描くのなら、彼は「家では家族思いのいい夫、父親」というような設定になっているはずである。(ちなみにホレイショーは時々彼女はいるもののずっと独身のようだ。)
一応、ドラマではヒーロー的な役割のキャラクターなので、その公私混同は視聴者の理解できる範囲内だが、同時に正当化しきれない不適切さを残している。しかしもちろん、正当化できない部分にもきちんと事情があるので視聴者にはホレイショーを「欠点もあるヒーロー」として見えるようになっている。
でも、ホレイショーを演じるデビッド・カルーソはウィリアム・H・メイシーに似ていてヒーローっぽくない。